カワウソ暮らし
カワウソに取り憑かれるとどうなるか?
「魚が魚籠に一杯捕れるまで、そばでぼうっと水を眺めさせられるだけです。連れが欲しいんでしょう。けれど、人間様は、そんなことに時間を費やしていては、生活というものが成りたちません。」(『家守綺譚』 梨木香歩)
カワウソはもう日本にはいないかもしれないので
カワウソに取り憑かれる日本人ももういないのかもしれません。
カワウソに取り憑かれたらたいへんだ、と、思いこんでいるうちに、
カワウソはいなくなっちゃって、
カワウソじゃないものに、
取り憑かれているのかもしれない。
『家守綺譚』 は、山科疏水べりの日本家屋で家守をする物書きが主人公。時は大正時代、ちょうど京都に発電所が完成したころ。家主の息子、高堂は、学生時 代、琵琶湖にボートごと沈み、ついに遺体があがりませんでした。高堂と大学の同級だった縁で、主人公はこの家の家守を任せられます。主人公に恋をする庭の サルスベリ。疎水から池に流れ着くのは、河童の女の子や、龍田姫のお供の人魚。主人公に寄り添う、頼もしく愛らしい仲裁犬ゴロー。高堂も雨の日には、掛け 軸を介して主人公を訪ねてきます。疏水べりで鮎を釣るカワウソ老人。ふきのとうを集める小鬼。「カワウソ暮らし」に魅いられそうになりながら暮らす、主人 公の日常がつづられています。